【ONE PIECE】僕に盲目になって【ローorキッド】
第1章 君の光を守りたい二ヶ月間
「……おい」
「…は…はい…!」
「また落ちたぞ…」
「え?あ…本当だ…」
……さっきから、見ていて何か引っ掛かる。
可笑しいのだ。
女が落ちた食料を籠へと一つ一つ戻していくのだが、二つに一つは籠へ入れたつもりでまた砂の上へと転がる。
それがとても焦っている所為だとは思えず、立ち上がりかけたおれはもう一度膝を着き直した。
「………目が利かねェのか?」
そのままの疑問を只ぶつけてみる。
杖をついてはいない。何より此処まで歩いて買い物に来たのはこの女自身だ。全く見えていないということは無いだろうが、余りに当たり前のように掬った物を落とすものだからそれが一番考えやすかったのだ。
「…えっと……片目、だけ」
「片目しか見えねェのか」
「はい…左は…失明していて、右は…日が暮れるとちょっとだけ霞むけど、見えますよ…全然」
そう言って眉を寄せながら小さく笑う女は、気まずいのか視線は俯かせたまま地面に手を伸ばし続ける。
「……そうか」
世の中は不公平だなんて、つくづく感じた。
おれのような悪者が欲しい物を手にし、好きなように暴れ、満たされないことも、燻る思いもない人生を送っている。
そんな世界の裏側では、こうして誰の害にもならないであろう、微笑むだけで人を幸福に導くような美しい女が身体の不自由さに足を崩し、転び。誰の力も借りずとも見えない明日にすら前向きに生きているというのだ。
今更そんなことに微塵の罪悪感もないが、無意識のうちに、おれは汚れてしまった一つの林檎へと手を伸ばし籠へと放った。
「あ、ありが……」
「こらァ!お前…海賊!!○○ちゃんに何してやがンだ!!!!」
「…何だァ?」
「お…おじさん…!?」
澄んだ声が掻き消される。
それも不快だったが、何よりその怒声が己に向いていることに眉を寄せしゃがんだまま振り返れば恐らく其処の果物屋の主人だろう年配の男が顔を真っ赤にして此方を睨んでいた。