【ONE PIECE】僕に盲目になって【ローorキッド】
第1章 君の光を守りたい二ヶ月間
「しかし…そんな買ってこられたって、ほぼ確実に明日おれは此処を去る。無意味だとは思わなかったのかよ」
「…キッドさんが好きに遣えるお金をいただいたのなら、私はそれを思い切り貴方のために遣ってやろうと思いました」
「使わねェモン買ったってどうしようもねェだろうが」
「殆ど他人の私に大金渡す方がどうしようもないですよ、もう!もしかしたら使うかもしれないって可能性があるなら、これはとても意味が有ります!」
「わぁったよ…煩ェな…」
女はこれだから面倒だ。
男は都合良くも悪くも、事実や結果だけで会話しようとする。
女はそのときの感情や経過をやたらと大切にしたがるのだ。
何かが起きない限りは互いに足りない部分を補えても、ぶつかるときはこうしてぶつかる。
これは意見の行き違いじゃない。
主張だ。
人と関わっていく上で、主張が必要なのは己を知ってもらう為なのだから仕方ない。
それを双方で受け入れたり赦したりと、相性というのはそこから先のことを言うんだろう。
「あ、お酒。今飲みますか?お風呂も湧いてるんで、良かったら」
「……風呂をもらう」
「はい。廊下に出て右です。タオルは戸棚の中のを適当に使ってください。今着てる服は今晩洗って明日には乾くようにしますから」
本当はどちらでも良かった。
あまりにも他愛無い、夕飯。会話。笑顔。
こそばゆい空間から抜け出したくて、舌を打ちたくなるのを、それは格好悪いことだと堪えながらおれは席を立ちコートを脱いでからバスルームへと向かった。
「…調子狂うぜ」
脱衣所の扉を閉めると、浴室の電気をつけ甘い石鹸の香りにせめてもの抵抗として呟く。
ゴーグルを外し紅髪をくしゃりと掻き混ぜ、洗濯籠へ脱いだものを次々と投げ入れて。
裸になってしまえば、あとは熱いシャワーを頭からかぶるだけだ。
風呂上がりの酒はきっと美味い。
とにかく今は、余計なことを考えるのはやめることにした。
変わらない状況の中で藻掻いても何にもならないだろう。