第12章 想い思われ
「えへへ、なんか泣きついちゃって悪いっス」
「ううん。泣きたいときは泣けばいいじゃん」
「っ……、またそういうこと言って! もっと泣いちゃうっスよ!?」
「うっ、そ、それはちょっと……」
「ぷっ。冗談っスよ! さて、雨も降ってきたし……そろそろ戻るっスかね?」
「私、もう少しここにいたいから先に戻ってて」
「……一人で大丈夫っスか?」
「うん、ごめん。一人になりたいから」
「……わかった」
雨の中、黄瀬はそのまま背を向けて戻っていく。私はというと、どうしても一人で考えたくなって、よくないと思いつつも雨に打たれながらその場に立ち尽くした。
「そっか……黄瀬は、私のことが好きなんだ」
両手で頬を押さえる。熱い。熱を持って、けれどそれ以上に未だ実感が湧かなくて困ってしまう。現実離れしすぎていないか? あのモデルが、黄瀬が、私を好きだなんて。
嘘だなんて、言うつもりはないけど、本当に嘘なんじゃないかと思える。
でもあの涙は、演技なんかじゃない。本当の涙。
「好きって、難しい」
口にしてみると、更に難しい物のように思える。いつまでもここにいるわけにはいかない、そう思いその場を離れ歩き始める。
雨のせいで足元がぬかるんでいる、ちょっと危ないかも。
「足でも滑らせたらあぶな……」
ずるりと、足元が掬われる。
バランスを崩したかと思えば、身体は重力に従い下へと転落した。