第12章 想い思われ
「ごめんなさい。私は、好きとかそういうの……まだわからなくて。黄瀬のこと、好きだとは思う……けど恋じゃないの。ごめん」
静かに目を伏せた。どんな顔で彼を見ればいいのかわからなくなった。小さな罪悪感が棘となって胸の奥に刺さる。
「わかってたよ」
「……え?」
思わず顔を上げれば、冷たい滴が私の手に落ちてきた。
どういうこと? 雨? いや、違う。
「ああ、わかってたのに……ねっ」
「黄瀬? 泣いて……るの?」
大粒の涙を流して、綺麗な顔を歪ませている黄瀬がいた。
「好き、好きなんだよ有栖っ……俺じゃ、駄目なんスかっ!!」
片手で顔を覆い、惜しげもなく流される涙を見つめて、言葉を失っていく。好きだと言ってくれて、嬉しいのに……こんなにも嬉しいのに。それに応えてあげられない自分が、凄く、凄く嫌……。
「ごめん……なさいっ」
気付けば私も泣いていて、彼の手をそれでも離せないでいる。彼はぐっと手を引き、私を抱きしめた。
「ごめっ……泣かせる気とか、なくって……! でも、好きなんスよ! 絶対誰よりも有栖を幸せに出来るが自信ある!! ありのままの俺を見てくれる有栖が、どうしようもなく大切で嬉しくて……っ、気付いたら目で追ってて」
「うん……っ」
「好き! 好きっ、好きっ!!」
「……っ」
「お願いっ、二番までもいいから……っ! 俺を傍においてよ」
「そんな酷い事……出来るわけ、ないじゃない」
だってそれは、つまりは黄瀬の気持ちを利用するってことだ。そんなのは嫌。こんなにも真剣で……真っ直ぐ好きだと伝えてくれている人に、中途半端なことはしたくなかった。
「……ははっ、ごめん……大丈夫。冗談だから」
「黄瀬……」
「わかってるから、いいんスよっ……有栖っちが、誰を見ているのかくらい」
私が、誰を見ているのか?
その続きを彼は口にはしない。代わりに暫く、そのまま抱き合っていた。いつの間にか空は曇り、青峰の言う通り雨が降り始めた。