第9章 乱されほだされて
「いや、違うの。どうして……私に、キスしようとしたのかなって」
「……」
「キスってね、好きな者同士が両思いで……するものだと、私は思っているから……その、ちゃんと理由を聞いておきたくて」
「……理由」
「うん、理由あっての行動なのか、知りたくて」
本当は知りたくない、怖い。嫌だ。何も意味なんてないと、彼の口から聞きたくない。
「……有栖ちん見てたら、したくなっただけ」
「……え?」
「っ……」
「うえっ!?」
腕を引っ張られて、身体のバランスを崩したかと思いきや、視界は反転する。背に鈍い畳の感触を味わいながら、痛みで顔が歪んだ。そして、敦君が覆い被さるように、私の視界に飛び込んでくる。
「有栖ちん……」
「あ、敦君!? な、何の悪ふざけ!? や、やめ……っ」
「悪ふざけ? そんなんじゃねぇし……」
私の首元に顔を埋めた彼は、溜息なのか吐息なのか区別がつかないくらい色っぽい声と共に息を吐いた。
「有栖ちん見てると、奪いたくなる。全部、全部……」
「んっ……!」
生暖かい舌の感触が、首筋を這う。ぴくりと素直に反応する身体が憎らしい。