第9章 乱されほだされて
「いっ……!」
「紫原、有栖に謝れ」
「は? 赤ちん何言ってんの……」
「謝れと言っているんだ。聞こえなかったのなら、何度でも言うが?」
「意味わかんなすぎ。なんで謝んないといけないわけ? 俺は有栖ちんにちゅーしたかった、それだけ」
「お前が良くても、有栖がいいとは限らない。お前の都合で彼女を巻き込むな」
「……何が悪いのか、わかんねぇし!」
「おい、紫原っ!!」
征十郎の引き留める声さえも無視して、彼はまるで逃げるように走って行った。征十郎は追いかけることもせず、ただ私の頭を撫でた。ああそうか、この胸の中は彼のものだったのか。暖かくて落ち着く。
「有栖、大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
敦君の心の内が知りたい、でも知るのが怖い。本当に何の意味もないとしたら、それ以上に悔しくて悲しいことはないじゃないか……。
「赤司君、どうかしました?」
騒ぎを聞きつけて、練習に集中していた皆が此方へとやってくる。しかし征十郎は「なんでもない、続けていろ」とだけ告げ私をその場から連れ出した。
いつもより少し歩くスピードが速い。手を引く彼の後姿をただ眺めて、どうして彼はここまで怒ってくれたのだろうか……と考え始める。幼馴染だから? だとしたら、優しいんだな……。
「征十郎」
「なんだ?」
「……ありがとう」
「……」
彼の返事は、ないままに。