第9章 乱されほだされて
幸か不幸か一体どんな神様の悪戯か、征十郎の瞳に映る私達はけしていい顔をされていないことだけはわかる。
「赤ちん何怒ってんの?」
「俺の質問に答えろ紫原。お前は今、有栖に何をした」
冗談なんかではない、それだけを声色で察した敦君も顔色を変えて少し顔で不機嫌そうに答えた。
「何って、キス、したけど?」
「お前達は、付き合っているのか?」
「付き合っていることと、キスしたことは何か関係ある?」
「ある。もし付き合ってもいない身でキスしたというのなら……」
「俺と有栖ちんが付き合ってるわけないじゃん、ね? 有栖ちん」
「……えっ、あ……うん」
ただ頷くことしか出来ない。心の奥が、ちくりと痛む。敦君の顔を見ることが出来ない。そっか……敦君にとって、別に意味のなかった行為なのかな。
ぐっと唇を噛むと、涙が零れそうになった途端、後頭部に誰かの手の感触がしてその人物の胸へと顔を押し付ける形で抱き寄せられる。同時に、乾いた音が響いた。平手打ちしたかのような、音。