第8章 触れて離れて
「ねぇねぇ、有栖ちん」
「なに?」
「膝、貸して」
「ん……? ぬわっ!?」
敦君はごろんと寝転がったかと思うと、私の膝に頭を預けた。さらさらの髪が、流れるようにはらりと落ちて、私の肌に少しだけ触れた。
「敦君!?」
「有栖ちん……いい香りがするね」
「っ……」
手を伸ばして、おそるおそる彼の柔らかな髪を撫でてみる。どきどきする、近くて、じんじん胸の奥が熱くなる。ああなんでどきどきしてるんだろう、私はっ! 別にこんなこと、大したことないはずなのに!!!
「有栖ちん……?」
顔をこちらへ向けると、敦君は眠そうに……けれどふんわりと笑んだ。
「敦くん……っ」
「あ、下から見る有栖ちんって新鮮。いつもこうやって、俺のこと見上げてんのかな?」
「そ……うだよ。敦君は、本当に背が高いからね」
敦君の瞳が、私を捉える。瞳の奥に、自分が映り込んでいるような錯覚を覚えて動けなくなる。敦君は、長い腕を伸ばして、私の頬に触れた。
「おいしそう」
ぐっと近くなる距離が、嘘みたいで……――
「……んっ」
「んっ、はぁ……もっと、頂戴」
「敦くっ……んっ」
唇が、食むように奪われていく。敦君の顔が近くに合って、彼の唇が……唇が……?
嘘、今……私、キス、してるの……?