第8章 触れて離れて
「黄瀬、お前にはもっと苦痛を味わえる練習メニューを組んでやる必要がありそうだな」
「ひいっ!? 勘弁してくれっス!!」
逃げるように、黄瀬は走り去ってしまった。うん、あほの子だなあれは。
「有栖も有栖だ、何黄瀬に口説かれている」
「えっ、あれって口説かれてたの?」
「お前はもう少し警戒心を持った方がいいぞ」
「と言われましても……」
「とにかく。見学しても構わないがぼうってするなよ。ないとは思うが、ボールが飛んでこないとも限らないからな」
「大丈夫、皆ならそんなへましないでしょ?」
そう笑顔で返せば征十郎は仕方ないとでも言いたげな顔で、いつもの調子で練習へと入っていく。私はお言葉に甘えまして、初めてバスケ部の練習を見学させてもらうことになった。
学校とは違い、野外での練習。当然日差しも強く、尚且つ暑い。頭からタオルを被りながら、皆の練習を見守ることに。
「あらら、珍しいね。見学?」
「敦君! お疲れ様」
傍にあったタオルを一枚取って彼に渡した。
「休憩?」
「うん、そう。今から峰ちんと黄瀬ちんが1on1やるらしいから」
「へぇ……バスケってよくわかんないけど、皆凄いよね」
「そうかもねぇ。有栖ちん、お菓子とか持ってない?」
「残念ながら持ってないや」
「それは残念」
敦君はスポドリをがぶがぶ飲みながら「あちー」とこぼしつつ、二人の試合を眺めていた。初めて見た皆のバスケは、思っていたよりもレベルが高くて、とても中学生とは思えなかった。私も何か取り柄とかあればいいんだけどね、今此処で私が出来ることといえば料理くらいなのかな……。