第8章 触れて離れて
「丸ごと!!?」
『察しの通りだ……』
えっと、通常のレモンのはちみつ漬けというのは、スライスしたレモンを使用するのであって……。
さつきちゃん、一緒に今度、料理しようね。
「事情はわかったけど、私でいいの?」
『どうせ合宿は俺達スタメンだけの特別合宿だ。知らないメンバーはいないだろう? 気を遣う必要もない』
「征十郎がそういうなら……」
征十郎の頼みということで、私は彼らの夏合宿に参加することとなった。
「有栖っち! こっちっス!!」
「皆元気だなぁ……」
山を登り丘を越え、ようやく着いた下宿先。流石運動部というか……他の人達はどんどん競争するかのように走り出し、誰が一番早く下宿先につくかの競争を始めてしまった。故に、今私の近くにいるのは体力のない黒子と、女の子であるさつきちゃんと、呑気に保護者の微笑みで見物している征十郎くらいだった。
「元気なのはいい事だな」
「……征十郎、それなんかおっさんみたい」
「俺はキャプテンなのだから、皆とは一歩引いたところから見物できなくてどうする?」
「理屈はわかるけど……征十郎も走り出しちゃおうよ!」
「これから練習をするのに、こんなことで体力を使ってどうする」
「いいからっ、ほら!」
「おいっ!」
征十郎は昔からそうだ。子供っぽくなくて、いつでも周りから一歩引いた場所から傍観しては、全体を見回しながら生きているような人。中学生なんだし、もっと子供っぽくはしゃいじゃえばいいのにね。