第3章 夕陽が沈む頃
「何、黄瀬ちんと帰るの?」
「いや……別にそういうつもりじゃないんだけど。彼が勝手に……薄暗くなってきたから、女の子一人じゃ危ないよって」
「ふぅん……なら別に黄瀬ちんとじゃなくていいよね?」
「ん?」
「行こう」
大きな彼の手が、私の手を包み込む。ぐっと手を引かれ、彼の隣に並ぶ。横から彼を見上げるのは、昨日ぶり。襟足まで伸びた髪が、首筋が、中学生のわりに色気があって、ついつい見惚れてしまう。
「どうしたの? 有栖ちん」
「っ……! ううん、なんでも……ないよ」
どうしよう、この手を握り返してもいいのかな?
迷いながらも、恥ずかしさで俯く。
男の子の手って、こんなに大きいんだ……。すっぽりと私の手を包み込んでしまうほどに。暖かくて、手汗かいちゃったらどうしようなんてことまで、考えてしまう。ああ、緊張してきた。
思い切って手を握り返せば、ぴくりと敦君の手が反応を示す。
「……バーカ」
「えっ!? な、なに!!?」
さっきよりも強く、ぎゅっと握られて頬が熱くなるのを止められない。
昨日は、傘が私達の間に入っていてくれたけど、今日は何もないんだと思うと無意識に彼を意識して、隣に居るんだということを感じさせられる。掌から鼓動の早さが伝わったら……そう考えてしまうと外の音がまったく耳に入らなくなってくる。
そっと彼を見上げると、いつもと同じ気だるそうな顔をして、真っ直ぐ前を見つめていた。
その瞳に、私が映らないものかと、期待してみる。