第15章 それぞれの痛み
「有栖!」
ですよねぇええええ!! 征十郎はあろうことか、こちらへと走り寄ってきた。勿論、女性生徒達は一体征十郎が誰を呼んでいるのか、と興味津々である。ああ、私の平穏な学校生活が…。
「有栖!」
「や、やあ征十郎……。な、何も練習中にこちらに声をかけてくれなくとも」
「そんなところじゃ見えないだろう? ほら、こっちへおいで。一番見える場所に案内してあげるよ」
「ちょっ、ちょっと!?」
強引に手を引かれ、体育館の中へと足を踏み入れる。後ろから「あの子誰?」「赤司様の何?」と聞こえ心なしか明日の自分の身が恐ろしくなった。
小学生の頃を嫌でも思い出してしまう。やだな……来たのは間違いだったかな。
「ああ、そうだ」
ぴたりと征十郎が足を止め、女子生徒達へと振り返った。
「彼女は俺の大切な人だから、もしいじめたり裏で傷つけようと目論んでいたら……その時は容赦しないよ?」
にっこりと微笑んだ征十郎とは裏腹に、女子生徒達の表情は、少なからず凍り付いていた。私は隣で、彼の威圧的な空気に正直驚いていた。小学生の時とはまるで違う。恐ろしいとさえ、思えるかもしれない。
「有栖? 君を傷つける全ては、全部俺が消してあげるから、心配しなくていい。さあ、好きなだけ見学しておくれ」
わざわざ出してくれたパイプ椅子に座らされると、征十郎は練習へと戻っていった。他のメンバー達は気にしていない様子で、私へと手を振るので振り返しておいた。
練習は合宿の時ほど過酷なものじゃないけれど、やっぱり皆凄いなぁと思う。毎日欠かさず練習して、その成果がきっちりと試合に出ていて。試合、見に行きたくなっちゃうなぁ。