第15章 それぞれの痛み
「あれぇ? 有栖ちんじゃん」
「敦君! 今日も沢山お菓子抱えてるね……」
夏休みが明けよと、敦君のお菓子の量はやはり変わらない。ぽりぽりとまいう棒を食べながら敦君がじろじろと私の顔を見つめる。
「ん? どうかした?」
「いや……なんかあった?」
「え!?」
「考え事してますって顔してるけど」
「ほ、ほんとに!? あわわ……いや、本当になんでもないんだ!」
「ふぅん? なんかあったら、俺に言うんだよ」
ぽんぽんと頭を優しく叩かれる。敦君の手は大きい、他の誰よりも。その手で頭を包み込んでいつか潰されたらどうしよう、なんて考えはしないけどごめん一度だけ考えたごめん。
「敦君は優しいね」
「有栖ちんにだけ、特別」
「……へ?」
敦君はひらひらと手を振って「じゃあね」と去っていく。特別ってどういう意味の特別だろう。また一つ私を悩ませる種が増えたような気がした。
なんだかんだで、征十郎に会わずに放課後を迎えた。今日は暇だったから、何度か皆が見学に来たら? と誘っていたことを思い出し、珍しく体育館へと向かう。しかし、入り口付近に沢山の女子生徒が溜まっているのが見えて一瞬躊躇ってしまう。
「げっ、こんなにバスケ部って女子に人気なの?」
おそるおそる女子生徒に混ざる形で近づく。出来るだけ邪魔にならないように、攻撃されないように適度な距離を取って。彼女達の向こう側には、微かに彼らの練習風景が見えた。
ふと、征十郎と目が合った気がする。いや、たぶんこの場合は気のせいじゃない。