Do not look back behind【進撃の巨人】
第2章 自分の足で
「えと…私は孤児院で暮らしていて。生まれてすぐに道に捨てられたらしくて…親の顔と名前は知らないんです。名前だけ書かれた紙が一緒に置かれていたみたいで。」
自分のことだというのにこうもあっさりと言えるのは、諦めがあるからだろうか。
「そうか…。」
しかし、彼は違うようだ。
先ほどから眉間のシワはかなり深いが、その一言には私に対する同情や深く追求して聞かない優しさがあるような気がした。
彼の手を握り、手紙を託す。
「これは愛する人への思いの形です。本当はいけないんですけど、あなたを信頼して託します。必ずこの手紙を待っている人達に渡してください。」
そう言って手を離すと、彼の表情が柔らかくなった気がした。
「あぁ、必ず届けよう。」
では…と、振り返り足を進めようとする。
しかし左手を掴まれてそれを遮られ、体が半分だけ彼の方を向く。
「夕方は来なくていい。」
顔は相変わらず恐いままだが、少し悲しそうなのは気のせいか。
「どうしてですか?」
「お前本当に知らねぇんだな…。てめえだって地獄を見たくはないだろう。」
忘れていた。彼は兵士。
そして今日は壁外調査の日。
そうか、私が調査後の傷ついた兵士達を見なくていいように…。
彼なりの優しさを察して心がポカポカする。
「わかりました…。でも明日来ます。」