第1章 ホタル ※
「分かる? 私は男としても、女としても、愛してもらえないばかりか・・・」
メガネをそっと取り、茶色の瞳を悲しそうに揺らす。
「男としても、女としても、愛してあげることができないんだよ」
このペニスは勃起しない。
この膣は濡れない。
性行為をすることができないんだ。
ハンジは夜空を見上げた。
「だから私は巨人を憎みきれないのかもしれない」
彼らは生殖器が無い。
そんな自分と似た境遇なのに、なぜ生まれてくることができるのか。
羨ましいし、その真実を知りたくてたまらない。
「そもそも、私のこの不完全な体を見て、愛してくれる人などいない」
だからずっと恋愛を避けてきた。
愛さないように、愛されないように、ずっと気をつけてきた。
でも、ハヅキ。
君はあまりにも魅力的だった。
誰からも愛される君に、自分の中にある“男”もまた、愛してしまった。
君の笑顔に気持ちは癒され、
君との性交を想像しては、勃つはずもない陰茎を弄る。
そして、悲しくなるんだ。
ハヅキを愛することができない、自分の情けなさに。
「だから、ハヅキから私を好きだという言葉だけは、聞きたくなかったんだよ」
ごめんね、気持ちに応えてあげられなくて。
どうか自分ではなく、もっと相応しい男性と恋に落ちて。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ホタルが光っては、消える。
ハヅキはその中で裸体を晒すハンジを見つめていた。
そして、ポツリと零れた言葉。
「綺麗・・・」
すらっとした体躯。
かろうじて膨らんでいる乳。
人差し指ほどの陰茎。
何故だろう、綺麗だと思った。
汚い欲望を感じさせず、ただ形を成すだけの性器。
ハヅキはそっとハンジの足元に跪くと、目の高さにあるペニスにそっと口付けた。
「ん・・・」
性感ではない気持ち良さが伝わる。
そして、柔らかい唇は上へと昇り、戸惑いを見せるハンジの唇に寄せられた。
「貴方の体は、不完全ではありません。特別な体なんです」
穢れなく、生まれ落ちたままの純粋さを保っている。