第4章 夏祭り ※
ドォン、と今度は鍵屋の花火が打ち上がる。
ハヅキは突然、大きな声をあげて笑った。
「あはは、なんて莫迦な人。遊女を身請けするために、身売りをする男なんて・・・!」
笑い終えると、今度はリヴァイの袖口を掴む。
「そして、なんて酷い人・・・わっちをもうひとりにするの?」
やっとあんたと分かり合えたと思ったのに・・・
その表情に、その言葉に、胸がどうしようもなく締め付けられ、リヴァイはハヅキの体を抱きしめた。
「だが、お前が俺の国に来ても幸せじゃねぇだろ。言葉は通じねぇし、文化も違う。姿形の違うお前が行っても・・・傷つくだけだ」
離れたくなどない。
しかし、それ以上にそんな思いはさせたくない。
せっかく手にした自由だ、これからはただ幸せになって欲しい。
すると、ハヅキはリヴァイの体を押し戻した。
そして片方の肩を艶やかに下げる、花魁の御辞儀をしてみせる。
「わっちゃ、吉原の高尾太夫え。生まれては苦界、死しては投げ込み寺。苦界十年を耐えた遊女を軽く見んすな」
遊女としての年季は10年。
その間に味わう苦しみは、地獄と変わらないという。
そして、死ねば投げ込み寺という寺に、供養をされぬまま亡骸を放られる。
生きても、死しても、遊女には地獄しかなかった。
そこから救ってくれたのは、お前さん・・・
あなただよ。