第4章 夏祭り ※
「ハヅキ・・・お前に言っておかなければいけないことがある」
「なに?」
「俺は明日、国へ帰る」
ドォン! と玉屋の花火が隅田川の上空に上がった。
華々しく散って行く火の粉を見つめるその瞳は、とても苦しそうで。
いくら聡明なハヅキとはいえ、そんなリヴァイの言葉を噛み砕くには時間がかかった。
「ハヅキを身請けするために、俺はエルヴィンに心臓を捧げた。あいつの敵は多い・・・俺は死ぬまであいつの用心棒として守っていかなければならない」
身請けを池田屋に申し出た際、要求された額は膨大だった。
過去に、身請け金として自分の体重と同じ重さの純金を出させた高尾太夫がいたように・・・
ハヅキをめとるためには、相応の額が必要だった。
“ エルヴィン・・・金を貸して欲しい ”
ハヅキを身請けしたいと言うと、エルヴィンは驚かなかった。
“ お前の気持ちには気づいていたよ。だが、身請けを申し出るほどとはな・・・ ”
“ 金を工面できるのはお前だけだ・・・恥を偲んで頼む ”
意地も、プライドも捨てての頼みだった。
昔、ゴロツキだった自分を拾い、用心棒にしていろいろな世界を見せてくれたエルヴィン。
この先一生、無償でその命を守ることを誓った。
“ だが、それではお前とハヅキはすぐに離れ離れになってしまうだろう。俺はすぐに・・・ ”
“ ああ、分かってる。俺はただ・・・ ”
「俺はただ、お前を自由にしてやりたかった」
遊郭という壁の中で、自由に憧れるだけの翼のない小鳥。
あの夜、少女のように眠るハヅキを抱きしめながら心に誓ったこと。
壁の外へ連れ出し、翼を与える。
それを実現できて良かった・・・
「エルヴィンに新たな命が下り、明日にも船で国へ帰らなければいけない。当然、俺もついていく」
固く閉ざされた吉原の大門から出てきたハヅキを見た瞬間、気持ちを抑えられなかった。
町民の前でも抱きしめ、唇を奪ってしまった。
そして、ハヅキを抱くことができるのは、館に迎え入れたその時のみ。
おそらく、最初で最後の性行為となるだろう。
だから猛獣のように求めてしまった。