第4章 夏祭り ※
筋肉隆々のリヴァイの体に寄り添いながら、ハヅキは窓を見つめた。
格子がはめられていない。
それだけのことなのに、ここが吉原でない幸せを実感できた。
裸のまましばらく余韻を楽しんでいたが、不意にリヴァイが立ち上がる。
そして、紅梅色の着物をハヅキの肩にかけた。
「町の女が着ている着物だ。この色がお前に似合うと思う」
自身も着物を羽織りながら振り向いた。
「今日は祭りだ。行きたいと言っていただろう」
覚えていてくれたのか・・・?
驚きで言葉を失っているハヅキを見て、リヴァイは顔をしかめる。
「・・・気に入らねぇか?」
「まさか・・・胸がいっぱいで・・・」
今まで高価な贈り物をたくさん受けてきたハヅキにとって、これまでで一番嬉しい贈り物だった。
きちんと前を合わせ、背中で帯を結ぶ。
髪もひっつめて、かんざしは漆塗りのものを一本だけ。
とても質素だが、嬉しくてたまらなかった。
表通りに出るころにはすでに陽が傾き、祭りを楽しむ人々でごった返していた。
「わっ」
さっきからハヅキはすれ違う人と肩がぶつかってばかり。
外を歩くといえば花魁道中だった自分にとって、人混みの中に入るというのは新鮮だった。
「大丈夫か。俺の前を歩け」
この人混みは、川の方へ向かって続いている。
「どうやら花火があるらしいな」
そばにあった露店で風車を買い、ハヅキに手渡しながら言った。
自分の国にはないのだろうか、クルクルと回る羽を興味深そうに見ている。
「花火こそ、江戸の華。花魁じゃなくてね」
楽しそうな声を出すハヅキを愛おしそうに撫でながら、リヴァイは空を見上げた。
花火の前に言うべきか、それとも花火のあとに言うべきか・・・
「お前さん?」
上の空のリヴァイに、ハヅキは怪訝そうな目を向けてくる。
「何か心配事でもあるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
やはり、隠し事はできない。
男の心中など簡単に掌握できるからこそ、吉原の頂点に昇りつめた女だ。
リヴァイは比較的人が少ない場所を選んで落ち着くと、そっとハヅキの腰を抱き寄せた。