第4章 夏祭り ※
それから、数日後の8月10日。
江戸の町は騒然となった。
第13代目高尾太夫が、身請けされた!!
大名の誘いにもなびかず、豪商が積む大枚にも目もくれなかった天下の花魁が選んだのは・・・
異国人の用心棒だった。
身請けの話を聞いた時、ハヅキは静かに涙を流したという。
そして、頭に刺したかんざしを外し、苦界の終わりにまるで少女のように無邪気な笑みを見せた。
「開門!!」
吉原と外の世界を隔てる、大門がゆっくりと開く。
ハヅキの最後の艶やかな姿を見るため、昼間から仲ノ町には人だかりができていた。
別れを惜しむ者、異人なんぞに買われたことを嘆く者、さまざまだ。
花魁道中とまではいかないものの、質素ながら美しい着物を纏ったハヅキは幸せだった。
7つの頃、もはや顔もうろ覚えとなっている父親に連れられて、ここにやってきた。
それから禿、振袖新造、新造と成長し、その間に花魁になるため徹底的に仕込まれた。
その間に・・・この大門から一歩も外に出たことは無かった。
しかし、もうこれで自由なんだ。
門が開き切ると、そこは光に溢れた眩しい世界。
その先にリヴァイが待っている。
客としてはたった一度しか会わず、床入りすらしなかったというのに・・・
一国が傾くほどの大金を払って自分を買ってくれた男。
「ハヅキ・・・」
吉原を出た瞬間、リヴァイに抱きしめられた。
そのまま深く唇を重ねられる。
いつにない激しさに戸惑いを感じながらも、そこまで求めてくれることが嬉しかった。
人の目を気にしない熱い抱擁だったが、江戸っ子には清々しいと捉えられたようだ。
「よ! ご両人!!」
「日本一の女だ、幸せにしてやれよ!」
次々と、歓声が上がった。