第4章 夏祭り ※
「・・・?」
「お前はエルヴィンの女だ」
その言い草がおかしく、声をたてて笑う。
「わっちは遊女。寝る男は旦那だけじゃない」
「ああ、そうだな・・・何より、エルヴィンにも故郷に妻と子がある」
そう。
吉原は別世界。
ここで結ぶ夫婦の契りは、戯れでしかない。
「お前は、そんな生活に嫌気はささないのか」
「嫌気?」
そんな感情は、とうに忘れた。
処女を無くしたその日に捨ててしまった。
「そんな感情が少しでもあったら、この生き地獄で生きてはいけない」
でも、どうして?
今、貴方の顔を見ていると、自分に対する嫌気がふつふつと湧いてくる。
「何か願いはないのか・・・?」
リヴァイはそっとハヅキの隣に横たわりながら、髪を優しく撫でる。
願い・・・?
それを口にしていいの?
「・・・そんなものありゃしません」
「あるだろう。人間ならば、な」
布団の上で、裸の遊女を腕の中に収めながら抱かないとは・・・
しかも、遊女を人間扱いするなんて・・・こんな男本当に初めて。
「わっち・・・」
涙が出そうなことを悟られないよう、リヴァイの胸元に顔を埋める。
「わっちだって町娘のように木綿の着物を着て・・・夏祭りに行きたい」
もう、豪華な着物もかんざしもうんざり。
重たい衣装を捨てて、草履で町を自由に歩くの。
お面に、風車。
町を練り歩く大神輿。
もうすぐ江戸で大きな夏祭りが開かれる。
それに行きたい。
でも、吉原の大門を出て外に行くことは許されない。
折檻の上、殺されることだってある。
「そうか・・・」
リヴァイは切なそうに瞳を揺らすと、ハヅキの体を強く抱きしめた。
その手があまりに温かく、そのまま眠りに落ちていく花魁の背中を、いつまでもいつまでもさすっていた。