第4章 夏祭り ※
そして、夏も深くなったある日。
ハヅキは「呼び出し」を受けた。
しかも相手は、馴染みではなく初会の客。
そのような無礼は“丁重”に断ることとなっており、楼主も訝しげな顔をしている。
しかし、その男が数多くいる旦那のひとりの付き人だと分かると、ハヅキは楼主に向かって首を横に振った。
「親父様、どうか行かせておくんなんし」
馴染みではないものの、その客のことはよく知っている。
ハヅキは一番上等の着物を纏い、特に顔立ちの美しい禿を呼びつけた。
そして始まる、豪華絢爛花魁道中。
引手茶屋で待つ客の元へ、江戸一番の花魁がゆったりゆったりと参じる。
大名相手でも恥ずかしくないほどの知識と教養を持ち、将軍相手でも頭を下げることをしないプライドと品格を持った遊女。
大きな歓声を受けながらたどり着いた茶屋で待っていたのは、黒髪の異人だけだった。
吉原で最高級の揚屋に案内し、金箔が塗られた壁が美しい座敷に通す。
ハヅキは上座に座り、異人はその正面の座布団に黙って座った。
次々と運ばれる馳走と酒には目もくれず、不躾なまでにハヅキを見つめている。
「ぬしや、らくにおなんせんかえ。気がつまりんすよ」
堪らずにそう言うと、異人は眉根を寄せた。
「普通に話せ・・・俺はエルヴィンほどにお前たちの言葉を知らない」
「あい、すみません。気がつまるので、どうからくにして」
すると、異人は冷たい三白眼をハヅキから逸らし、格子がはめられている窓を見た。
年の頃は分からぬが・・・三十路だろうか。
エルヴィンよりも少し若そうだ。
「まだ御名を聞いておりせんが」
「リヴァイだ」
普通、座敷では客達がどうやって花魁の気を引こうかと四苦八苦するものだ。
しかし、この男はまったく花魁を楽しませる気はなさそうだ。
粗暴な話し方に、ハヅキは新鮮さすら感じた。