第4章 夏祭り ※
「三枚歯の塗り下駄を、素足で履くのが粋だねぇ。ちらりと見える細い足首がたまらねぇ」
「知ってるか? あの太夫を呼び出すほどの男は、殿様でも大名でもない。黄色い髪をした異人らしい」
「何? 異人なんぞに江戸の華を渡してたまるか!」
「は! 揚代も払えねぇ貧乏人が何を言ってる。異人は銭を持っているから仕方ねぇ」
そう。
ハヅキが向かう先は、異人が待つ引合茶屋。
遊女と客が、偽りの愛を楽しむ場所だった。
「ああ・・よく来たね、太夫。暑かっただろう」
道中を終え、茶屋についたハヅキを出迎えたのは、金色の髪に碧眼の男だった。
名は、エルヴィン・スミス。
ひと月前に茶屋に現れ、すぐに馴染みになった男だ。
白粉を塗った肌を一撫でし、口元に笑みを浮かべる。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しかしハヅキは、エルヴィンの手の感触などそっちのけで、その後ろにいる小柄な男に目を向けた。
黒髪だが、顔立ちは日本人のそれではない。
エルヴィンと違って小柄で、紺の着物を粋に着崩している。
何より、良い男だった。
彼はいつもエルヴィンと一緒に茶屋へ来るが、遊女達にはなびかず、ただしかめっ面で時を過ぎるのを待っていた。
「花魁、こちらへ」
遊郭には、いくつかのしきたりがあった。
まず、花魁は、初めての客とは口を聞かない。
客が振る舞う食事には一切手をつけず、ただ上座に座るのみ。
2度目も変わらず、微笑みすら見せない。
家数軒が建つ大金をつぎ込んでも、名前すら呼んでもらえない。
そして、3度目にしてようやく、“馴染み”となって床を共にすることができる。
しかし客はここでも“馴染み金”として大金を支払わなければならない。
また、花魁が気に入る色男でなければ、金だけ払わされて床入りすることができない。
しかし、エルヴィンにはそれだけの財力があった。
また、美しい顔立ちをしていた。
異人ながらも、客として申し分が無い。