第3章 花火 ※
もし、自分が海賊でさえなかったなら。
オヤジという絶大な存在がなかったなら。
その選択肢も悪くなかっただろう。
エースは後ろから抱きしめているハヅキの左手を取り、一緒に空へと腕を伸ばした。
その手首に付けているログポースは、すでに次の島“バナロ島”を指している。
「熱くねェから、安心しろよな」
自分の手のひらに重ねるようにハヅキの手を乗せ、小さなの火の玉を幾つも生み出す。
「暖かい」
ハヅキは微笑んだ。
「これはおれの命だ。火はどこにでもある。どこにでも生み出すことができる」
ユラユラと優しい光を放つ、蛍火。
ふたりを包み込む。
今は、共に生きることができない。
だけどいつか。
すべてが片付いたら、お前をオヤジの船に乗せよう。
エースはハヅキの顔を上に向けると、唇を重ねた。
「ハヅキを抱きたい」
生きた証を残したい。
誰よりも自由に生きたい。
そんな自分の生き様を変えてしまうような女性。
出会ってしまったことへの軽い戸惑いと、強い憧れを感じる。
自らの運命を悟っていただろう、“ゴール・D・ロジャー”もこんな想いで、南の島に住んでいた母ルージュを抱いたのか。
ハヅキはエースの頬を撫で、目を伏せた。
「あなたが私を抱きたいのなら、私をひとりにしないという証を見せて」
エースは笑った。
「そいつはしばらく守れそうにねェから、代わりにこれをやる」
ゴソゴソとポケットをまさぐり、汚い紙切れを手渡す。
「これはビブルカードっていうもんだ。どれだけ離れていようと、こいつが必ずおれの所在を示してくれる」
弟にも渡したんだぜ、と笑った。
出来の悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ、と。