第3章 花火 ※
それは、その島の暦で8月10日。
エースが島にやってきてから、3日後のことだった。
海軍が祭りの余興で花火を上げるというので、ふたりで見に行った。
もちろん、5億5000万ベリーの賞金首・・・しかも、白ひげ海賊団2番隊隊長となれば、おいそれと人の集まる場所に行くわけにはいかない。
宴好きのエースは行きたそうな顔をしていたが、ハヅキがそれを制した。
海軍主催の祭りに行くなど、もってのほかだ。
・・・殺されたらどうするの。
不安げな顔を見せるハヅキに、エースは温かい気持ちを覚えた。
結局、ふたりは岬から遠くの空に上がる花火を眺めた。
真っ暗な夜空に、パッと開く火の華。
「きれい」
ハヅキは呟いた。
「でも、すぐに消えてしまう」
その声は、切なげで。
寄り添うエースは、笑いながら頭を撫でた。
「見てろよ」
人差し指を空に向け、幾つもの火種を飛ばす。
そして、パチンと指を鳴らすと大輪の花を開花させるように散った。
「すごい!」
赤、青、黄、様々な色の火が舞う。
それは見事で、美しい光景だった。
「火拳の力は、ただ人を傷つけるためだけのものではないのね」
「いや、傷つけるためだけの力だ。だから手に入れた。今まではな」
空を横一文字に切って、金色の火の滝を生み出す。
キラキラと輝く帯が広がった。
「こんなことができるとは、自分でも知らなかった」
日焼けした逞しい体が、花火に見惚れているハヅキを包む。
火を操ったばかりのせいか、すこし熱い。
「だけど、お前に見せてやりてェって思えば、何でもできるモンだな」
不思議な気持ちだ。
これは、生まれて初めてのもの。
この島に腰を落ち着けて、一緒に暮らすという選択も悪くないような気がする。