第2章 海
地区予選から我慢してたんだ。
少しくらい欲張ってもいいだろう。
「ん・・・っ・・・紳一・・・」
本当は押し倒したいくらいだったが、仙道と花道に出くわすほどの場所だ。
下手したら藤真が鬼のような形相で突然現れるかもしれない。
“ 天敵の妹に惚れるとは・・・苦労するな、じい ”
はは、確かに。
これからは好敵手から、天敵になるのか?
それも少し寂しいな。
牧はようやくハヅキを解放すると、海を見つめた。
「オレの高校バスケ生活も終わり、か」
「まるで、悔いが残ってるって感じだね」
「まあな」
「良かった!」
ハヅキはサンダルを脱ぐと、躊躇なく波打ち際へ歩み、素足を波につけた。
「後悔する、素敵じゃない!」
キラキラと眩しい笑顔でこちらを振り返る。
「これからもずっと、紳一は夢を追いかけていかなければいけないってことだもんね」
大学チームに入って、プロになって。
後悔しなくなるまで走り続ければいい。
ずっとその姿を見ているよ。
あなたはひとりじゃない、私がどこまでも付き合ってあげる。
“ 牧さんは今年が最後だったのに・・・オレ達が不甲斐ないせいで、優勝できず・・・すいませんでした ”
泣きそうな顔で謝っていた後輩。
あの時は絶望すら覚えながら、慰めていた。
でも、違うんだ。
「ありがとな、ハヅキ」
悔しさの残る結末で良かった。
これでまた、終わらぬ旅に時を費やせるから。