第2章 海
「紳一」
遠い海の向こうに決意を固めていると、ハヅキが小瓶を拾って戻ってきた。
いったい何が入っていたのだろうか、手のひら程度の大きさの瓶。
「紙とペンある?」
「あるが、どうするんだ」
「大好きな人へ、メッセージを書くの」
いったい何を言い出すのかと思ったが、鞄から大学ノートを取り出して1ページを破り、ボールペンと一緒に渡した。
「オレへ何を書くんだ?」
「あ、自信過剰! 自分が私の大好きな人だと思っているんだ」
口の減らないところまで兄譲り。
そんなところも可愛くてたまらないのだから、自分の骨抜き加減に失笑する。
「すまん。じゃあ、その“大好きな人”に、何を書くんだ?」
「内緒! それを本人に言ったら意味ないもん」
「やはりオレへのメッセージじゃねーか」
「うるさいなー」
頬を膨らませながら、何かを書いた紙の切れ端を瓶に詰める。
そして手渡してきた。
「これ、なるべく遠くに投げて」
「オレがか?」
「うん。スリーポイント決める時みたいに、高く弧を描くようにね」
もう言われた通りにするしかない。
これも惚れた弱みっていうやつか。
牧はハヅキの要望通り、力いっぱい小瓶を投げた。
輝く水平線へ向かって描かれる弧は、まるで牧と夢を繋ぐ架け橋のよう。
小瓶の中に入った手紙に書かれた文字。
“ ずっと見つめているから、走り続けて ”
牧への溢れる想いと一緒に、海を渡って行く。
いつか、誰かの手に拾われる頃には、夢が叶っているのだろうか。
そして、晴れ晴れとした表情でそれを見つめる牧もまた、
“ ずっと走り続けるから、見ていて欲しい ”
言葉にしない想いを抱え、ハヅキの手を握った。
第2章 『 海 』 Fin.