第2章 海
防波堤をハヅキと手を繋ぎながら歩く。
口数が少なくなった牧を気遣い、ハヅキは延々と他愛のないことを話し続けた。
でも、その半分も牧の耳には入っていかない。
全国大会に行けなかったことと、
全国制覇を目前で逃したこと、どちらがつらいのだろう。
「あれ、紳一」
突然ハヅキが、牧の手を引っ張った。
「あそこにいるのって・・・」
浜辺をヨタヨタと歩いている、真っ赤な坊主頭。
どこからどう見ても、湘北のあいつ以外にいない。
「まったく・・・今日はいろんな奴に会うな」
牧は頭を抱えながらも、防波堤からその男に声をかけた。
「桜木!」
「ぬ?」
花道は太陽の光が目に刺さったのか眩しそうにしたが、すぐに牧だと気づいたようだ。
「おお、じい!」
老け顔の牧だからかなのかもしれないが、そんなあだ名をつける勇気があるのはこの男だけだ。
隣でハヅキが腹を抱えて爆笑している。
「・・・背中は大丈夫なのか?」
軽い怒りを抑えながら、全国大会で背中を痛めた花道を気遣う。
すると、ハチャメチャなルーキーは不敵な笑顔で牧を見上げてきた。
「オレを誰だと思ってるのかね? この天才なら、これしきのケガなど3日もあれば治る」
本当はそうでないことを、牧よりも本人が知っていた。
事実、花道が向かう先には脊椎脊髄外科で有名な病院がある。
それでも軽傷だと言ってのける強靭な精神力、それが湘北を全国まで押し上げたのかもしれない。