第2章 海
「魚住も安心するだろうな。次期キャプテンの頼もしい言葉を聞けて」
「オレはキャプテンというガラじゃないですよ」
仙道は右手にどこまでも広がる海に目を向けた。
その瞳は何を目指しているのか。何を欲しているのか。
牧には知る由もない。
「もう一度、牧さんが率いる海南と勝負したかったなあ」
「安心しろ、オレがいなくても海南は強い」
「そうですね」
自分よりも少し背が低い牧を見て、柔らかく微笑む。
帝王がいなくなるのは寂しい。
だが、湘北に流川と桜木、海南に清田という、試合を面白くしてくれる奴らがいる。
決して、ラクになるわけではない。
「全国に行くのも、まだまだしんどそうだな」
「だが、それを楽しんでいるんだろ、お前は」
すると、仙道は嬉しいような困ったような笑顔で肩をすくめた。
「そうなんでしょうね。ああ、でもやっぱり残念なことは残ってますよ」
そして、牧の隣に立っているハヅキを見つめる。
「あなたのお兄さんと、もう一度戦えなかったことです」
「仙道さん・・・」
帝王と肩を並べる実力を持ちながら、選手としての自分を殺さなければいけなかった不運のスター。
真の意味で、今年の夏に“双璧”は存在しなかった。
「じゃあオレはもう行きますね。デートのお邪魔でしょうし」
「だから、からかうなと言ってるだろう」
「すいません」
まったく悪びれずににやけた顔へ戻ると、地面に置いていた空のバケツを持ち上げた。
「それでは、失礼します」
「頑張れよ、仙道」
「はい」
ハヅキの肩を抱きながら、神奈川最高のプレイヤーが去って行く姿を見つめる。
「紳一?」
思わず手に力が入り、ハヅキは少し痛そうな顔で牧を見上げた。
「ああ、すまない」
確かに仙道と“あいつ”が戦うのを見てみたかった気がする。
いや・・・
仙道の言うように、俺も最後にあいつと戦えなかったことが残念だ。