第2章 海
「海に行こうよ」
帰り道。
牧の少し前を歩くハヅキは、ニコリと微笑みながら振り返った。
「今からか? 荷物があるだろ」
「いいの! 行こうよ」
こんな我が儘すら、可愛いと思えるのだから仕方ない。
ぷーっと膨らませているハヅキの頬をつねりながら頷いた。
「しょうがないヤツだな。じゃあ、今から行くか」
体を休めたい気もしたが、ハヅキと一緒にいたい気持ちの方が強い。
それに今、ひとりになりたくないのもあった。
海へ行く道すがら、防波堤を歩いていると前から見覚えのある男がやってきた。
あのツンツン頭に、にやけた顔は・・・
「あれ、牧さん」
「仙道」
陵南高校のエース、仙道彰。
釣竿を持って、Tシャツに短パンというラフな格好をしている。
「奇遇ですね。あれ、隣にいるのはもしかして・・・」
「こんにちわ」
さっきまで我が儘を言っていたのはどこへ行ったやら、おしとやかな笑顔で挨拶をする。
猫かぶりなところも“そっくり”だ。
牧は苦笑いをした。
「へえ。魚住さんから聞いてはいましたが・・・本当に“似て”ますね。いや、お似合いですよ」
「からかうな、仙道」
しかし、牧はまんざらでもないようすだった。
少々意外だったが、傍目からでも心底彼女に惚れているのが分かる。
バスケットコートの上では絶対に見せないような表情に、仙道は珍しいものを見たなと思った。
「牧さんがその荷物を持ってここにいるってことは、全国大会が終わったということですね」
それまでヘラヘラとしていた仙道の瞳が、一瞬にして鋭い光を宿す。
「次はオレ達が行きますよ」
「・・・ほう」
他人にはあまり興味を示さない男だ、海南が準優勝に終わったことは知らないだろう。
牧が驚いたのは、その仙道が高みを目指しているということだった。
たとえ公式戦でなくても、目の前の試合が楽しければそれでいい、そういう男だと思っていた。