第2章 海
「こら、ハヅキ」
フワフワの茶髪が鼻をくすぐって、思わずクシャミが出そうになる。
肩にかかる一週間分の荷物と、人ひとり分の重みに苦笑いをしながら、背中をポンポンと叩いた。
「みんなが見てるだろう、あまり堂々と抱きつくんじゃない」
「おかえり!!」
頬にえくぼを作り、満面の笑みを浮かべるのはルール違反だ。
しかも、この炎天下の中ずっとここで待っていたのか、鼻の頭がちょこっと赤く日焼けしている。
・・・いじらしくて、可愛い。
牧は溜め息を吐きながらも、自分よりも二回り小さいその体をギュッと抱きしめた。
「ただいま」
会いたかった。
しかし、その一方で海南大付属バスケ部の面々は、公衆の面前でいちゃつくキャプテンに唖然としていた。
「・・・神さん・・・アレが・・・噂の・・・」
清田がまるで幽霊でも見たかのように口をパクパクさせている。
しかし、神は対照的に落ち着いていた。
「ああ、信長は初めて見るんだっけ? あの二人はいつもあんな感じだよ。キスをしないだけマシかな」
「イヤ・・・硬派だと思ってた牧さんにもびっくりですけど・・・」
牧の彼女については、海南で知らない者はいない。
いや、神奈川の高校バスケ界においても知らない者はいないのではないか。
「カノジョさん・・・なんていうか・・・“モロ”じゃないっすか・・・」
「ああ、そっちか。そうだね、オレも初めて見た時は驚いたよ」
クスクスと笑う神。
ハヅキとは同じ2年だが、頭を下げて挨拶をしなければいけないような気持ちになる。
清田は恐々と二人を見ながら呟いた。