第2章 海
“ 8月10日、駅まで迎えに行くからね! ”
このメールが届いたのは、大会前日。
そして今日は、8月9日。
敗退した学校は、その翌日に帰ることになっている。
もし初戦に敗れでもしたら、1週間前に帰っていたかもしれない。
なのに、最初から海南が決勝まで勝ち進むことを信じていたのか。
「ハヅキ・・・」
会いたい。
気が強く、我が儘で、真っ直ぐで・・・
そして、唯一ライバルと認めた男によく似たあいつに。
牧は顔をほころばせながら、慣れない手つきで7日遅れの返信をする。
“ 8月10日に帰る ”
優勝トロフィーは持って帰れないが・・・
あいつはどんな顔で待っていてくれるのだろうか。
牧は庭石から立ち上がると、無数の蛍を目で追った。
点滅する光のひとつひとつに無邪気な笑顔を重ね、少しだけ気持ちが軽くなるのを感じる。
だが、同時に悔しさが激しく込み上げてきた。
聞こえるはずもない、試合終了のブザーの音が聞こえる。
あと、5点だったんだ・・・
シュート3本決めていれば・・・
いや、スリーポイントであれば2本で良かった。
「クソ・・・」
試合後初めて海南のキャプテンから漏れた悪態は、誰にも聞かれることなく夜空に溶けていった。