第2章 海
海南は、準優勝という形で全国大会を終えた。
表彰式を終えた後、注目選手だった牧は記者からの質問責めに遭った。
本当はすぐにでも休みたいのに、そうさせてくれない。
「一歩及ばなかったけど、良い試合だったよ!」
「牧君は間違いなく全国で5本の指に入るプレーヤーだ」
記者や大会関係者から称賛されるたび、どう反応して良いか分からず曖昧に笑った。
「優勝に届かなかった気持ちを聞かせてくれるかな?」
「自分達に足りなかったものは何だったと思う?」
そんな事を聞かれるたび、どう答えるべきか分からず曖昧な返事でやり過ごした。
ありがたいことに、牧紳一の名前は自分が思っていた以上に知られているようだ。
知らない他校の人にまで労いの言葉、気遣いの言葉、励ましの言葉をもらった。
「これからも頑張ってね」
「きっと次は優勝できるよ」
ありがたい・・・・・・
しかし、疲れた。
チームメイトから遅れること、1時間。
牧はようやく海南が宿泊している旅館に着いた。
試合にフル出場して肉体的に疲れているというのに、あと一歩で優勝旗を手にすることができず、精神的にも疲労困憊している。
今はただ、布団に横になることだけを考えていた。
しかし、部屋のドアを開けようとしたところで、後ろから呼び止められる。
「牧さん」
風呂に入ってきたのだろう、2年のガード・神宗一郎が立っていた。
「取材、お疲れ様です」
「お前も今日はご苦労だったな。清田は?」
「信長なら飯も食べずにフテ寝してますよ。風呂に入れるのも一苦労でした」
大会前の合宿では、はしゃぎながら夜更かしをしていた、1年の清田信長。
“野猿”とピッタリのあだ名をつけられたフォワードのお守り役といってもいい神は、クスクスと笑っているものの心中は穏やかでないらしい。
その目は笑っていなかった。
「あの、牧さん・・・」
「なんだ?」
「すいませんでした」
神奈川県予選では得点王にまで輝いた男が、短パンの裾を掴み、唇を噛みながら呟く。