第2章 海
神奈川県予選17年連続優勝を誇り、“常勝”の王者と称される海南大付属高校男子バスケットボール部。
その中で、たった5人しか許されないレギュラーの座を入学当初から守ってきた異質の存在。
「新キャプテンは、牧! お前だ」
それは、高校2年の夏だった。
準決勝敗退で終わった全国大会のあと、厳しい暑さが残る体育館で監督から指名された。
その時、驚きはなかった。
周りも、自分自身も、それが当然だと思っていた。
全国ベスト4という結果は素晴らしい。
だが、満足も、達成感も得られなかった。
他の誰でもない、このオレがチームを引っ張り、全国制覇を成し遂げる。
そう誓ってから1年。
海南は王者で有り続けた。
練習試合では負け無し、引き分けは藤真健司が率いる翔陽高校との一戦だけ。
しかし、翔陽だけでなくライバルは次々と現れた。
陵南高校は仙道彰を筆頭に、
湘北高校は流川楓を筆頭に、海南を倒すべく力をつけてきた。
最後の直接対決が叶わないまま、藤真は敗れ、
肩を並べるほどの成長を見せながら、仙道は自分に一歩及ばず、
恐ろしいほどの伸びしろを残し、流川は驚異的な才能を開花しきれずに終わった。
夢を果たせなかった翔陽や陵南の夢を背負い、
インターハイの覇者・山王工業高校と激闘を繰り広げた湘南の意思を継いで、狙うは優勝のみだった。
大歓声の中、ブザーが鳴る。
全身から吹き出す汗、床に落ちるボール、動きを止める時計。
すべてがゆっくりと目に入り、牧は天を仰いだ。
こんなに激しく心臓は動いているというのに、肺が酸素を求めて伸縮しているというのに、
すべてが本当にゆっくりだった。
床に大の字になり、大声で泣き叫ぶ清田。
スリーポイントライン際で、呆然としている神。
ユニフォームに顔を埋め、肩を震わせる高砂。
脚を痙攣させながら、大粒の涙を流す武藤。
最後まで戦い抜いた仲間全員を確認してから、スコアボードに目を向ける。
86ー91
5点・・・か。
それが、自分と全国制覇の間にある距離だった。
「遠いもんだな」
牧は小さく呟くと、深呼吸をひとつ。
そして、相手チームのキャプテンと握手をするため、歓喜の輪の方へ向かった。