第1章 調光作用
家から徒歩2分のコンビニに着いた。空調が効いていて涼しい。
ただ、外と一緒で眩しい事には変わりなかった。
「いらっしゃいませー!」
ここ最近は深夜にしか来店していなかったからか、店員さんの顔ぶれがいつもと違う。いつもは若い兄ちゃんだらけなのに、今日はおばちゃんばかりだ。
・・・そうか、昼間は若い子達は学校にいって、おばちゃん達はパートして働いてるんだな。
それに比べてあたしはどうだろう?悠香は自問自答する。
ただの引きこもり。治す努力もしない。親からの仕送りで一人暮らしをしている悠々自適な穀潰し。
目を開けてられない程眩しく感じられるのは、社会貢献をして輝いている、お偉い人間様のせいでもあるのかもしれないな。
あたしなんて人間様に「いらっしゃいませ」と言っていただけるのもおこがましいのに。悠香は背中を丸めて店内を進んだ。
弁当コーナーの前で代わり映えしない商品を眺める。どれもこれも体に悪そうなほど茶色い。
最近はストレスの余り暴飲暴食に走ってしまい、弁当1つでは到底足りない胃袋になってしまった。
脇腹に余分な肉がついた。体重も増えた。頭が重く、縛られたようにギュッと痛む。耳鳴りに襲われる時もある。
「死にたい」と思う事が増えた。
死ぬ勇気も無いくせに包丁を腹にツンツンして心を落ち着かせる日々。人間の体は意外と傷付かない事を知った。リスカする人は凄いと思う。
・・・誰かがこのどうしようもない状況から救い出してくれたら、なんて。
助けてくれる人などいるはずもない。助けた所で報酬など無いから。そもそも悠香の現状に気付くような人間もいない。
恐らく悠香が実際に腹を刺して死んだとて、死体の腐乱臭が隣近所に届くその日まで、悠香の事など誰も気にも止めないだろう。
そうやってあたしは社会の喧騒に埋もれて消えて行くんだ。それこそ夏の眩しさの中で揺らめく蜃気楼のように。
「んーっ。」
悠香の隣で何かがぴょこぴょこと跳ねた。