第1章 調光作用
明度とコントラストを人為的に上げた、不自然なまでに眩しい写真を見ているような気分だった。
直射日光が目を貫き、気温が肌を嬲り汗を誘う。空は馬鹿みたいに真っ青で、道路は熱によって揺らめいていた。
緑が生い茂る公園からは蝉の鳴き声が聞こえる。季節はすっかり夏だ。冷やし中華は今年もしっかり始められただろうか。
「はぁー・・・。」
サウナのような世界を突き進む悠香の足取りは、熱くなったアスファルトで溶けたのかと思うほど重かった。
まだ家から出たばかりの顔は汗一つかかず、日焼けとは無縁と言うほど白い。歩く度にひらひらと揺れるワンピースから伸びる手足も同様に白かった。
それでもやはり暑いらしく、悠香は手首につけていたヘアゴムで髪の毛をまとめる。顔と同様に白いうなじが顔を覗かせた。
「あっつい・・・。」
小さく唸った悠香の眉間に皺が寄る。
「眩しい・・・。」
目はほとんど開いていなかった。
いつ以来だろう。こんな時間帯に外出するなんて。
昼夜逆転生活をしている悠香は、ほとんど開いていない目で晴れ渡った青空を仰ぐ。
・・・どうしてあたしは今、こんなところを歩いているんだろう。
どうして歩いているかと言われればコンビニに行くためで。
珍しく昼に起きたらおなかが空いていたからに他ならない。
自分で決めて外出した事なのに、悠香はまるで他人事だった。
いや、世界が異世界に変わってしまった事で、悠香にはまるでここが現実では無いかのように感じられるのだろう。
しかし世界を異世界に変えてしまったのは、昼夜逆転という「普通から逸脱した異常な生活をしている」悠香本人である。
悠香の欠伸が暑い夏の空気に溶け込む。目には濃い隈が不健康を象徴するように刻まれていた。