第1章 夢中
重い腰をやっと炬燵から上げれば、銀時は視線を菊に向けて新八に尋ねた。
「んじゃ、調理場に連れてくのコイツだけで良いんだな?」
ほらよ、と菊に手を伸ばした銀時は、一回り小さな彼女の手が収まるのを待った。菊もその親切に甘え、そっと銀時に手を委ねて立たせてもらう。
そのままキッチンへ向かう前に、揚羽の様子を一目見ようと振り返れば、菊は小さな少女と目がカチ合う。瞳には少しの不安が見て取れた。
そのアイコンタクトを好機に、揚羽は胸の内を少し零す。
「でも私、姐さんと一緒にお料理したいよ? 駄目? 一緒に行ったら姐さんにも悪い事が起こる?」
本音は姐と共にいたい揚羽である。だが今まで聞いた限り、作者の意向に従わなければ酷い事が起こるとの事。自分一人であれば、どんな罰を受けてでも姐と共にいる覚悟は出来ている。がしかし、その肝心な姐に飛び火が移っては意味がない。健気にも問う揚羽に、新八は優しい笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫。菊さんと揚羽ちゃんの二人は、作者に逆らってもお咎め無しだって。代わりに銀さんの睾丸が爆発するだけだから」
頭に血が登る感覚が、再び銀時を襲う。
「何が『だけだから』だ、コノヤロー!! 何で俺だけ!? 卑怯だろうが!! 三人分の責任しょってる『銀さんの銀さん』の気持ちも考えやがれ!!」
「いや、気持ち悪いんで考えたくないです。そろそろ時間もないですし、僕はこれで失礼しますよ。よく分からないですけど、揚羽ちゃんは一人で炬燵を楽しんでいれば話が進むそうなんで、あとは適当にどうぞ」
「もう話す事はない」と言わんばかりに、新八はそそくさと帰って行った。あっさりと退場した彼に呆気にとられながらも、大人二人はキッチンへと向かう態勢に入る。