第1章 夢中
「じゃあ、私達も料理をしに行くわね」
「うん」
「ま、適当に好きにして良いけどよォ。体に悪いから炬燵で寝んなよ」
「はーい」
素直な返事を返せば、銀時と菊は共に去って行った。去り際にちゃんと襖も閉ざされ、ついに部屋は一人ぼっちの世界へと変わってしまう。
和室に取り残された揚羽は、どうしたものかと辺りを見回した。いざ一人になる空間に放り込まれると、何をすれば良いのかが分からない。
とりあえず近くに置いてある風呂敷に手を伸ばしてみる。上品な赤色の布には、白く愛らしい千鳥紋が散りばめられている。何かを包んでいるソレの中身は、寺子屋で使用している教材だ。
揚羽はおもむろに教科書とプリントを風呂敷から取り出した。ペラペラと捲りながら宿題を見るが、全ての課題が終わっているのを再確認してしまうだけだ。これでは暇つぶしが出来そうにない。別な部屋へ行ってテレビでも見たいが、炬燵から離れるのは得策ではないだろう。
丁寧に教材を風呂敷の中へと包み直せば、揚羽は少々投げやりに寝転がる。結局、本当に炬燵でゴロゴロするしかないらしい。銀時には寝るなと注意をされたが、もう退屈しのぎの案はそれしかなかった。炬燵から伝わるまどろみに身を委ねれば、数分も経たずに揚羽は夢の中へと旅だってしまう。