第1章 暑い
「うっわ…お前んちってこんな山奥にあんのか…」
本田の家を出てからどれ位の時間が経ったのか分からない。
時間が経ったから、というのは勿論だが、街灯がほとんどと言っていいほど無い。マジで無い‼
「…はっ…はい…」
歩いてるだけなのにひなの息が荒い。
ひなの歩幅が狭いのは承知済みだったから出来るだけ合わせていた。
それなのに、心なしかだんだんと荒くなっている気がする。
「大丈夫か?…歩くの辛い、のか?」
「…えっ?だい、じょうぶ…です。っい…きま…しょう」
「嘘つくな…なんかあんだろ?お前…」
大丈夫、と言いかけたひなは膝から崩れ落ち、前かがみになって咳をする。
苦しそうなんてもんじゃない咳だ。
頭の中が混乱した俺は目の前の現状をうまくのみ込めないままその場に数秒立ち尽くした。
我に返ってひなの背中をさする。
大丈夫か、と尋ねると声は帰ってこない。首を縦に振るだけ。
どう見ても大丈夫じゃない。
そう判断した俺はひなを抱きかかえ、本田の家へ向かって走った。
ふと触れたひなの手首の脈は早く打っていた。
「本田っ‼‼」
激しく音を立てて開いた戸が家中に響く。
慌てて来た本田達はひなの容態を見るなり顔を青く染めた。
その後すぐにひなを奥へと連れて行き、家にあるもので応急処置を行った。
もっと早くからひなの異変に気付いてやれなかった自分に無性に腹が立った。