第1章 暑い
「お前、ここのすぐ近くに住んでんのか?」
「はい、結構近いですよー。ここから2,3キロ…くらいかな…。」
「……いや、それ近いって言わねえから。」
「少し苦しくなるだけですよ」
「…苦しくなる…?」
女は「はっ」っと顔を上げ慌てて口を押えた。
「あ。分かった、お前本田のこと好きなのか?」
「なわけないでしょう。ただのご近所さんですし。」
思わぬ即答。
「え、だって好きなやつに会うと苦しくなるー、とかいうだろ?あれ、言わないっけか…?」
「どっちにせよ、理由は違います!」
内心どっかで安心してる自分が。
なに安心してんだ?俺。自分でもわかんねえ。
「お前今暇なのか…?」
「まぁ、暇すぎて暇じゃないですよ。暇であることが私の役目、っていうか…仕事、っていうか…課題、っていうか……」
「まぁ、簡潔にいうと暇なんだな。おし。わかった。
暇なら俺様の相手しろ!いや、してくれー!」
「まぁ、本田さんが戻ってくるまでなら…」
「Danke!!」
しつこいと言っていい程、女…ひなは外国のことに関して興味を示す。今のドイツ語も含めて。大袈裟な位の反応が俺は正直可愛いと本気で思った。
「海外のこと、いっぱい教えてください!」
「…おう!おう!!」
こんな純粋な目で、態度で言われたら断るわけにはいかない。
俺様のプライドが許さねえ!!
俺はひなの知りたがっている外国のことは全て答えてやった。
途中で俺が先生、ひなが生徒みたいになって話しているときはつい笑った。
俺がどんだけ調子に乗っても、どんだけ上から目線で話しても興味を示してくれるのが新鮮で妙にひかれた。
もっとコイツと話したい。