第1章 暑い
「あ、そうだっ…本田さんいますか?」
「今は居ねえ。なんか用なら伝えとくぜ?」
お願いします、とだけ言って俺に渡したのは白い大きな紙袋。
中にはいろんな種類の野菜が入ってた。
俺が顔を上げると、一礼だけして女はどこかへ行った。
なんか変な感じだ。
これだけのこと、これだけの話なのに俺はなぜか変に引き込まれた。
きっと、ルッツに言えば呆れた顔で溜息を吐かれるだけだろう。
けど、これは本当に俺の仮想なんかじゃない。
そんな気がしてならないんだ。
「おや。ギルベルト君、本当に今までトマトの収穫なさってたんですか。ご苦労様です。…その紙袋どうしたんですか?」
汗だくになった本田達3人が戻ってきた。
「わーっ!美味しそうな野菜だね!」
「あぁ。形も色もきれいで丁度食べごろだな。」
「…あ。内海さんからの頂き物ですね。」
紙袋の中を覗いた3人が様々と口にする。
「なんか、セミロングくらいの黒髪でやけに大きい帽子被った小さい女が持ってきたぜ。」
「えっ、年配の方ではなかったですか?」
「…?おう。」
本田の顔が少し曇った。
「ヴェー…もしかして、お化け!?」
「こんなに明るいのに野菜を届けに幽霊が来る訳ないだろう。」
「いえ、…内海さんの家のお孫さんです。何も心配することはありませんよ。それより、皆さん暑いでしょうし一旦お茶でも飲んで休憩しましょう。」