第1章 暑い
「独りで農作業楽しすぎるぜーっ‼」
辺りから聞こえるのは主に蝉の声のみ。人の気配もない。ある意味俺様だけの空間‼
以下の点を踏まえて俺は胸のうちを叫んだ。←
山びこするわけでもなく、虚しさが増しただけだったってのは思ってても口に出すなよ?
慣れない蒸し暑さに耐えながら俺は本田の家のトマトをひたすら収穫していた。
なんで毎日が日曜の俺様がこんなことをしているか、っていうと…まぁ、あれだ。暇だったからルッツについてきただけだ。
で、確か、日本で強化トレーニングするとか言ってたな。
そして本田の家のトマトをひたすら収穫している俺様。
重要だから2回言ったぜ。
「っていうか…こんなに蒸し暑いのは予想外だったぜ…俺んとことは比じゃn…」
「お兄さん、外国人ですか?」
さっきまでは自分の声と蝉の声しか通らなかった耳を、女のか細い声が通った。
人の気配はなかったはず。
俺は反射的に声がした方を向く。
「わっ。すごい、銀髪だし目が赤い…そういうの、紅眼って言うんですよね?」
セミロングの黒い髪が風になびき、それが光で透かされ焦げ茶色に輝く。
小さい体に合わない大きな帽子がやたらと目についた。
「外国の方…ですよね?私、実際に外国人見るの初めてなんです!こんな山奥じゃ来てくれる人なんて日本人でも少ないから…。って、外国の人なのに日本語で話しても通じないか」
一人で言って、一人で突っ込んで、一人でもどかしそうな顔をしてるのが何処かおかしく、俺は思わず吹きだした。
そんな俺を女はただきょとん、と見つめた。
「あぁ、俺日本語通じるから大丈夫だぜ」
「…‼すごい、物凄く日本語上手いじゃないですか…!」
「ん、当たり前だろ!もっと褒め称えてもいいんだぜ?」
「本当にすごいです!もしかしたら私よりも上手いかも…」
あまりにも応えかたが純粋で俺は一瞬反応に戸惑った。