第2章 感情
「…今日は、ほんとにいろいろありがとうございました」
あれから10分程度で、ひなの家に着いた。
「いや、俺こそ。楽しかったぜ!ありがとな」
ぽん、とひなの頭に手をのせる。
コイツは本当に体が小さい。顔も、体も、手も、足も。
こうしてみると、頭3個分くらい違うな。
猫みたいに撫でを受けるひながはっきり言って、愛しい。
俺様好みの撫で心地。
「あ。そうだ。お前、明日から家出んなよ」
「えっ、なっ…なんでですか!?」
「決まってんだろ、お前の体調の為だ。」
「私大丈夫ですよ、全然!」
なわけないだろ、と言い一度ひなの額をつつく。
長く生きられない、なんて言われたやつが大丈夫な訳ない。
なんて言っておいて、
たぶん、
一番こいつが外に出られなくて悲しがってんのは
俺だな。
溜息を必至に堪えて、小指を出す。
「指切りしようぜ」
「…いやです。絶対にいやです。…外に出たいです。」
八の字に下がる眉。
俺までつられそうになる。
「というか…」
「ん?」
「正直なところ、
ギルベルトさんに会いたいです。」
ぼそぼそ、と呟き、不意に俺のほうを向く。
なんで、俺がこんな必至に感情を抑えつけて、提案してるってのに
お前は俺の気も知らないで、
こんな気持ちにさせるんだ?
応えてやることなんて、したくてもできないだろう?
「なっ…なんて、嘘ですよ。わかりました。明日からは家、でません。」
「…ん。わかってくれたんなら良い。」
俺はもう一度ひなの頭を撫でる。
けど、もうさっきと同じようには受けてくれなかった。
「ほら、早く家に入れ。また怒られちまうぞ?」
「わかりました… じゃあ、さようなら」
「ん。じゃあな」
手を振り、家に入ったのを見届けると、
俺は必至にもう一度感情を抑える。
自分の思い通りになんかできないし、しちゃいけない。
大事なやつのために、自分の欲を閉じ込めるのは、今までだってやってきたことだろ?
「ひなの為、だ。」
俺は本田の家の方を向いて歩き始めた。