第2章 感情
「そろそろ日も落ちる頃ですし、帰りましょうか」
日中の蒸し暑さは多少残っているが、夜が徐々に近づいているのは俺でも分かる。
「あ。今日こそお前んちまで送ってくぞ!」
「……じゃあ、お願いします。」
ひなは渋々承諾すると、自分の家の方へゆっくり歩き始めた。
この場所にいても昨日と変わらずやっぱり苦しそうに咳をしていた。
その症状を見ていて、さすがにひとりで帰らせる訳にはいかない。
というか、一人で帰らせたくない。
少しでもいいから長く一緒にいてやりたい。
「今朝家に帰ったら、おばあちゃんに散々叱られちゃいました。…どうしてこんなに心配させるんだー、とか。もう家の外に出るのは禁止だー、とか。」
「…え」
「…え?」
下を見ながら歩いていたひなは俺の疑問の言葉に顔を上げた。
なんで、どうして外出禁止なのに今こいつは外に出てるんだ、と。
コイツに全力で問いたい。
「……これは、お前の為だからな。」
俺はひなを持ち上げる。
いわゆる"お姫様抱っこ"の形で。
そりゃ俺はこんなこと女にすんの、コイツが初めてな訳で。
そして、きっとコイツもこんなこと男にされるのは父親以外は俺が初めてな訳で。
故に、当然二人の微妙な沈黙が。
会って2日の女にこんなことをすんのは非常識だってこと位俺だって分かってる。
でも、これはあくまでもコイツの体への負担を最小限にするための手段であって。そう自分に言い聞かせる。
丁度俺の心臓部分にひなの耳が当たっている。
きっとこの異常なくらい早い鼓動もばれてるな。