第2章 感情
水面が揺らいだ。
ひなは顔を一切歪めることなく一筋だけ涙を流す。
それを拭うと、もう泣いた跡はない。
「もう、ずっと前から言われてるから。分かってたんですけどね。どうも生きられない、って言われると怖くなっちゃうみたいで」
怒りも笑いも泣きもせず、ただ一点に視線を向けるだけ。
ひなの横顔を伺う限り、感情は読み取れない。
「お前、友人はいねえのか?」
「随分と直球で聞いてきますね。今の結構こころに刺さりました。 まぁ、居ないっちゃ…居ないですかね」
「じゃ、俺様がお前の親友第一号な!」
ひなの顔の前をびしっと指差す。
「………」
俺が何を言っているのか瞬時に理解できなかった様子。
不思議そうに瞬きした後、興奮気味に何度も俺に問い返す。
肯定の意を込めて一度だけ頷くと、
嬉しそうに笑って
「ギルベルトさんは私の親友第一号、ですね。よろしくお願いします!」
小指を立てた。
「その小指…なんだ?」
「あ、これは指切りです」
「切り落とす、ってことか!?」
俺は自分の後ろに両手を隠す。
「ちっ、違います!約束、って意味です。」
半ば疑い半分にひなの顔を覗く。
悪意の微塵もない笑顔で俺を見返すから、反射的に目をそらす。
その顔はまじまじ見れる気がしない。
小指をおもむろに出すと、指を絡めて目を閉じ、微かな声で歌い始めた。
ゆびきりげんまん、
うそついたらはりせんぼんのます
ゆびきった
「これが日本式の約束方法なのか?」
「んー…日本式と言いますか…私もよくわかりませんけど、そういうことにしときましょう」
今度ルッツと約束するとき使ってみるか