第2章 感情
「風邪、まだ完全には治ってないんだろ?こんなとこに来て大丈夫なのか?」
ひなは目を逸らしつつどこか不安そうに笑った。
なんだその笑顔は、と言いたい衝動に駆られる。
「…その顔なんだ、って言いたそうですね」
「え、…えっ。え、なんのことだ?俺にはさっぱり…」
見事に的中され反射的に肩がびくっ、と動いた。
だが、ひなは俺を疑う素振りを見せず、素直にそのまま俺の言葉を信じた。
やっぱり、こいつのこういう所、俺の調子が狂いそうになる。
もちろん、悪い意味ではないけどな。
「……お前と居ると調子狂う…。」
溜息混じりに本音を漏らす。
やっぱり直球で受け止めるひなは相当落ち込んだような顔をする。
「違う、悪い意味じゃなくて…なんていうか、調子狂うけど…、素直に嬉しいぜ。お前の反応。」
ほかの奴と違って、と脳内で付け加えた。
「よくわかりません…けど、良かったです。そういうことなら」
表情までころころ変わるんだな。コイツは。
百面相っていうか、それ以上の気がする。
目の前に座ってたひなは俺の隣に移った。
少し鼓動が早くなるのを感じながら俺は何事も無いように目を閉じる。
「私、風邪なんかじゃないんです」
「は?」
瞬時に目を開け、ひなの顔を伺う。
「なんていうか、結構危ない"喘息"だそうです。」
ひなは視線を湖の一点に向けたままずらすことなくゆっくりと一度瞼を閉じた。
風が通り過ぎたと同時に目を開けると、無理矢理口角を上げた。
「私、お医者さんにもう長くは生きられない、って。言われてるんです。」
白い肌に一筋の雫が伝った。