第2章 感情
「なぁ、ルッツ」
俺は洗い終えた洗濯物を干すルッツを視界に入れながら縁側に寝転ぶ。
相変わらず蝉の鳴き声が気に止まるが、もう慣れたもんだ。
寧ろ今は聴き慣れない風鈴の音色の方がどこか違和感を覚えさせる。
「…なんだ?というか兄さん、寝転がっていないで少しは手伝ってくれないか。」
俺は生温い返事を返し、目を閉じた。動く気はない。
勿論ルッツも俺が動くとは予想していないだろう。
「今朝、ひなのこと、家まで送ってきたんだろ?」
「あぁ。」
上半身のみを起き上がらせ、ルッツのほうを向く。
ルッツは手を休めることなく洗濯物の方にのみ集中している。
「ひな、体調どうだったか?」
「悪くはなかった…な。昨日に比べれば随分良くなっていた。」
「じゃあ、なんか言ってたか?…俺のこと。」
ルッツは俺を一瞥すると声も表情も変えることなく「何も。」とだけ告げた。
俺も同じようにルッツを一瞥し、声も表情も変えずに「そうか。」という。
「………兄さん。」
改まったように視線を俺の一点に向かせると
「今日の兄さん、様子がどこかおかしい気がするのだが。もし俺の気のせいでないとすれば、原因はあの少女か?」
予想外の言葉だ。
「予想外の質問だぜ。だけど、たぶんその通りだ。」
「そうか。俺も相当予想外の回答がかえってきた。」
俺らは顔を見合わせて笑い合った。