第1章 奥まで愛して
かくして山は動き王子役を演じることと相成ったリヴァイ兵長。
彼は窓辺に腰掛け不機嫌な眼差しで落ちる夕陽を眺めている。
『……兵長』
兵長の陥落後、ハンジ分隊長は満足気に部屋を出て行った。モブリット副隊長と共に大道具作りを開始するらしい。
団長も公演場所の下見や広報活動があるとかで去ってしまったし……要するに今、私は兵長と部屋に二人きりだ。
「何だ」
『きっと素敵ですよ』
なんたって人類最強の刈り上げ……じゃなかった、王子様ですからね。
何のフォローにもならない言葉をかけて私は笑った。
すると、兵長は夕陽から視線を外してこちらを見つめてくる。
「貸せ」
『え……?』
「台本を貸せと言ってるんだ。もう出来てるんだろ」
いつになく真剣な表情の兵長に押されてしどろもどろの私。
書類の束から恐る恐る台本を取り出して兵長に差し出してみる。
「やるからには最善を尽くさねぇとな」
練習に付き合え。
これは、命令だ。
兵長はそう言って私の手を引いた。