第1章 奥まで愛して
「チッ……うるせぇのが来たな」
あからさまに苛立ってみせる兵長を無視して分隊長は私に抱き付いた。
「おお、愛しの姫よ!ガラスの靴は君だけのモノだよ〜!」
何がそんなにお気に召したのか知らないが、兵団公演の主題を決める際に分隊長はシンデレラをゴリ推ししていた。
本人曰く“美しい娘をイジめる継母”がツボなんだとか。
もう数年の付き合いになるが分隊長の考えてることは未だに謎だらけだ。
コンコンッ
分隊長のスリーパーホールドにタップを入れていると、開きっぱなしのドアをノックしてエルヴィン団長が入ってきた。
「やあ、精が出るな」
相も変わらず柔和な笑み。
数年前と何ら変わらない。
団長の腕には美しい装飾が施された木箱が抱えられていた。