第5章 さよならの直前:マスルール
セリシアSIDE
正直言って、まさか出向前に彼に会うとは思わなかった。
昨日は予想以上に忙しくなって、彼にもう一度会う選択肢はなかった。
だから、仕事とはいえ、最後にあえてとてつもなく嬉しかった。
「マスルールさん。」
ちょっと声をかけていいのか迷ったけど、結局声をかけた。
彼の仕事が半分くらい終わった時。
彼は普通に振り向いた。
「・・・。」
何を考えてるんだろう。
にこりともせず、じろっと見た。
「えっと、仕事が終わったら、出向前に少しだけ・・・話せませんか?」
何でもいい。
最後に一言でいいから、彼の言葉を聞いておきたかった。
自分から話そうとしといて、本当かってだよね。
「・・・いっスよ。」
その言葉で、気が付いた。
別に彼はじろっとこっちを見たんじゃない。
もともと無表情だし、あれは向こうも驚きがあったんだろう。
話しかけるとは思わなかった、とか。