第7章 バレンタイン:ジャーファル
「あなたのことですから、きっと別に持ってくるだろうなとは思ってましたよ。」
ふふ、と笑いながら受け取ってくれるジャーファル。
大人らしく余裕があるなあ…。
私にはまったく余裕がないのに!!
「…ありがとうございます。お昼の時より、何倍も嬉しいですよ。」
「それなら、私も嬉しい…な。」
いつもプレゼントとかしないから、すっごくドキドキする。
直視できないなんて、久しぶりだよ?
「…セリシア。」
名前を呼ばれて顔をあげる。
すると。
「!」
チュ…
触れるだけの軽いキス。
唐突すぎて、なんかもうなに考えてたかも吹っ飛んだ。
え、ちょっと…え?
「お返し、です。ふふ」
あ、ジャーファルも照れてる。
色々なんか、どうでもよくなっちゃった。
「もー、びっくりするじゃん…!」
「すみません、なんかすごい緊張してるなあと思って。ふふ、でも私も緊張してたんですよ?気づいてなかったでしょう?」
「えっ、全然。緊張してたんだ…なーんだ。」
大人の余裕、なんて勝手に思ってただけか。
あはは、なんかホッとしちゃったや。
「告白するわけでもないのに、そんなに緊張してるなんて思ってませんでしたよ。」
「それを言われるとほんとにその通りなんだけどね。」
「…ちゃんとしたお返しはホワイトデーにしますけど…もう1回、してもいいですか?」
顔を覗き込むようにしながら言うジャーファル。
「ジャーファル、酔ってないよね?」
なんだか嬉しくて、軽口を叩いてしまう。
そうだ、私達ってこんな感じだった。
ようやくいつもの感じが思い出せてきた。
「もちろんですよ。…いいですよね?」
「うん…もちろん。」
幸せで、さっきまでの緊張が嘘のようだった。
触れるだけのキス。
いつもと同じはずなのに、どこか甘く感じられた…。
「愛してますよ、セリシア。」
end